ノンフィクションながらこれまでのどの冒険譚よりも楽しめました。今年中に読んだ本の中では断トツで面白かったのでおすすめです。

スコットランド生まれの植物学者のロバート・フォーチュンが英国東インド会社からスカウトされて、当時外国人の出入りがほとんどなかった中国の内陸部まで茶の栽培方法や収穫後の製造過程を探りに行き、チャノキを持ち帰って無事インドへの茶の技術移転を成功させ、巨大産業のきっかけをつくるという内容です。

歴史が好きで、銃・病原菌・鉄みたいな本が好きな人は特に楽しめると思います。

タイトルに「スパイ」とありますが、原著のタイトルが “For All the Tea in China: How England Stole the World’s Favorite Drink and Changed History”となっているようにスパイの要素が中心ではありません。

中国側は茶の製造工程などを他国にわからないようにすることで茶の貿易における優位性を保っており、イギリスでは茶が必要不可欠な商品になっているにもかかわらず輸入を中国に依存していました。

そんな状況に商売の機会を見出した東インド会社が、インドで独自に栽培を始めようとしますが、ヒマラヤに自生している茶の木は中国のものとくらべるとはるかに品質が低く使い物になりませんでした。そこで何とかして中国の茶の木とその製法を盗み出してインドに持ち帰ってきて生産しようとします。

東インド会社はプラントハンターのフォーチュンを中国内陸部に派遣して、苗木や種を送らせるとともに現地の茶の栽培や生成を熟知した技術者をスカウトしてくるよう命じます。イギリスでは緑茶と紅茶の原料が同じかどうかすら意見がわれていた状態から、中国からの技術移転を達成しようとしていました。フォーチュンは武夷山脈などの茶の生産地での生活を経て、茶の木の特徴や収穫後の製造工程を調べていきます。

主に植物の発見・分析についてと、それぞれの植物を取得してどうやってインドやイギリスに送るかについて試行錯誤する様子が描かれています。スエズ運河がまだなく喜望峰ルートで移動していてイギリスと中国を往復するのに何ヶ月もかかっていた1850年前後の話なので、植物を枯れたり、腐らせたりせずにイギリスまで持って帰るのに苦心しています。

商品作物を持ち帰ってその地で栽培できるようにすることは、産業を新しくつくりだすことであり、数本の苗木が巨大なビジネスのきっかけになるような時代で、商品作物は植民地の産業構造を塗り替えるほどの力をもっていたようです。当時植民地を多数かかえていたイギリスは、どの国でどの商品作物を生産するのが最も効率がよいのかを考えていたようです。

さまざまな植物学者や東インド会社(政府の出先機関)の関係者が意見を対立させ議論しつつ、中国での探検や植物の保管や維持のための実験などを繰り返して新しい地平を切り開いていく過程が面白かったです。